花嫁の湿度
〜「春は一日結婚パーティ」ができるまで〜
 

■その2 モラトリアムの罠
 
それからしばらく、結婚式の準備は遅々として進まなかった。両家の顔合わせ、入籍、新居探し、引越しといった“結婚関連行事”に、それぞれの仕事や不忍ブックストリートの仕事も加わってそれなりに忙しく、話し合いすら持たれぬまま、うっちゃられていた。
 
なにより大きかったのは、Iが就職したこと。それも、電車とバスを乗り継いで2時間強かかるところに就職したものだから、大変だ。長い通勤時間に耐えながら、早く新生活に馴染もうと仕事に没頭するIに、1年も先のことを考える余裕など、残されているはずもなかった。
 
とはいえ、それが世の常。よほど奇特なひとでないかぎり、結婚式に協力的な花婿を見つけるほうがむつかしい。さらに、1年という猶予が、私の気持ちを大きくしていた。時間はたっぷりある、まだまだ大丈夫。そうして時折、思い出したように式場やドレスの検索などしては、悦に入っていた。
 
じきにIも落ち着くだろう。そうしたら、「ブライダルフェア」なんてものに行ってみるのもいい。どうせタダなんだから、ドレスもたくさん試着してやろう。いやいや、引き振袖だって捨てがたい。とにかくあと少し、もうしばらくすれば……。
 
けれどその「しばらく」は、私の予想以上に長かった。日常生活のなかで夢に遊んでばかりいるうちに、みっつの季節が通りすぎ、気づけば秋。カレンダーの残り枚数も、心もとなくなっている。
 
おや?なにかおかしくないか?そんな疑問符を塗りつぶすように、「秋も一箱古本市」の準備が私たちを追いかけてくるのだった。(N)
 
 
二十歳を過ぎたら、時間は2倍速。
 
花嫁の湿度 80%