花嫁の湿度
〜「春は一日結婚パーティ」ができるまで〜

 
■その3 諦念、転身
 
そして、私はあきらめた。きらきら横文字結婚式の夢は放棄した。うし、ひらがなでいくぞ、いいな、みなの衆、ついてきやがれ!と、Iひとりにむかって気炎を吐き、ふんどしをぎゅうぎゅう締めなおした。
 
それ以来、私の妄想から♪やら☆やら♡やらは一掃された。すると不思議なことに、結婚式のイメージがぐっと具体的にたちあがってきたのだ。たとえばN陀楼氏が、ぴしりとプレスされたスーツに身を包み、豪奢なホテルや洒脱なゲストハウスで赤ワインをくるくるしながら談笑する姿は、失礼ながら想像ができない。それならいっそ、「獣」ハンチングに「ミスター一箱古本市」たすきで、にやにやしながら新郎新婦にビールを注ぐ姿のほうが、よほど現実感がある。
 
ということで、時間をくった割にはたいした紆余曲折も経ぬまま、不忍ブックストリートで結婚式をする、という当初の計画に立ち返ったのだった。
 
「秋も一箱古本市2009」の準備と並行して、私はてきぱき妄想した。漫然と妄想していたのでは、もはや間に合わないと気づいたからだ。ご存知のとおり、不忍界隈には結婚式場などないし、ウェディングプランナーなんて気のきいたひともいない。相変わらず多忙なIも、戦力にならない。頼みは自分の妄想力のみ。どこに、だれを何人招待して、どんなことをしたいか、という内なる希望を引き出すと同時に、それが実現可能かどうか、可能だとすればそのしかるべき方法まで、すべて自分で考えるのだ。
 
この日から、私は花嫁ではなく、たったひとりの「結婚式実行委員」として奔走するのである。(N)
 
 
「ご職業は?」「万年実行委員です!」
 
花嫁の湿度 65%